ドイツはライプツィヒを拠点とするマルチ奏者/作曲家/プロデューサー、Damian Dalla Torre(ダミアン・ダラ・トーレ)の3rdアルバム。いずれも傑作と呼び声高い過去2枚のアルバムからさらに深化した音世界は、今年のアンビエント系作品の年間ベストに数えられることが確実な素晴らしい内容。日本限定CD化。
繊細かつ抽象的な響きをたたえたギター、浮遊感あふれるヴォーカル、ハープ、パイプ・オルガン、テープ・ループ、マリンバ、ヴィブラフォンなど選りすぐりの演奏家たちと、ダラ・トーレ自身が演奏する管楽器/民族楽器/シンセのコラボレーションから織りなされる、親密かつ深部で響きあうようなアンサンブル。さらに角銅真実がオートハープや朗読で2曲に参加している。前作までの特徴だった高揚感や大編成によるドラマティックな展開は控えめになり、感情や情景の微妙な揺れを、ミニマルなアンサンブルで表現している。シンプルながら緻密にアコースティックとエレクトロニクスを融合し、構成されたその音像は、聴くものを特定の感情や意味に導くよりは、むしろ抽象性や暗示に満ちている。言葉で明確に説明できないことが、これほど豊かにさまざまな感情を呼び起こすのだという、音楽の素晴らしさに改めて気づかせてくれる。
前作『I Can Feel My Dreams』が英ガーディアン紙によって2024年のベスト・コンテンポラリー・アルバム第1位に選ばれたことで、音楽性への自信を深めたダラ・トーレは、さらなる挑戦と進化を求めて本作の制作へ臨んだ。誰かを喜ばせる(=People Pleaser)ために細部にこだわりすぎたり、音を詰め込むことをやめ、よりミニマルなアプローチを選んだのだ。
「環境音を音楽に取り入れることの力は計り知れない。私はただひたすら音を聴きながら生きている」
とダラ・トーレが語るように、アルバムはライプツィヒの鳥のさえずりで幕を開け、神戸の雨音、山奥の自然音が音楽に溶け込んでいる。前作の好評を得て行ったツアーで訪れたニューヨークでアンビエント・ミュージックに浸り、日本の森の静寂は、彼の音に対する視点を大きく変えたという。
自分を取り巻く環境と自身の内面の変化を、静かな強さで描く、都市や風景の豊かなタペストリー。数え切れない録音した音源、断片的なアーカイヴを組み立て、時間をかけて重ね合わせ、作品として昇華したこの『People Pleaser』。2026年を代表するアルバムとして、アンビエント/エレクトロニック/ポスト・ロック/ポスト・クラシカルなど、ジャンルを横断して多くのリスナーに聴いてほしい。
01: Intro / Sprouts
02: Longitude
03: Nacre
04: Chives
05: Bupi
06: Slant
07: Loops
08: Tenki Ame (feat. Manami Kakudo)
(2026年6月12日発売)